ACT03「接続:今この瞬間に…」

2022年8月1日

接続のエクササイズ

ここまで簡単に「接続」について見てきましたが、やはり言葉で語るのは簡単です。

「思考する自己を遠ざけ、観察する自己を通して「今、この瞬間」と繋がる…」なんて言われても、どうしても思考は止めようとも止められないでしょう…

ですので、ここでより体感的に「接続」を理解するためのシンプルな練習法をいくつかご紹介します。

では、いきましょう!

これからご紹介するエクササイズでは、いくつかの経験に繋がることが求められます。自分の置かれている環境の音や、体の中の感情などです。

その際に、思考や感情が湧き出て邪魔をしてきますが、次のことを心掛けておけば大丈夫です。

  • 思考や感情は起こるまま、去るままにさせる。そしてつながりを取り戻す。
  • 集中力がさまよい出したら(これは必ず起こります)、それが起った瞬間にそのことを認める。
  • 静かに自分に言い聞かせる「心よ、ありがとう」。そっしてゆっくりエクササイズに戻る。
シンプルな接続のエクササイズ

「環境に繋がる」

自分を取り囲む環境に注意を向けて見ましょう。

見えるもの、聞こえる音、感触、味、匂い…あらゆるものに注意を払いましょう。温度は、空気は動いているか止まっているか、どのような光がどの方向から射しているか…少なくとも五つの音、五つの物体に注意を払いましょう。自分の体の表面の感覚の五つ感じてみましょう(顔に当たる空気、きている服が肌に触れる感覚など)

これを30秒間やってみましょう。何が起こるか注意してみましょう。


「体への気づき」

自分の体とつながってみましょう。

心の中で、頭のてっぺんから爪先までスキャンします。頭の中、背骨、胸、腕、腹、膝…それら身体の部位や骨の位置や感覚に注意を向けましょう。

目を閉じ、これを30秒間やってみましょう。どんなことに気づくでしょうか。


「呼吸への気づき」

自分の呼吸とつながってみましょう。

呼吸する度に上下する胸郭に注意を向け、鼻腔を空気が出入りするのを感じましょう。鼻から入ってきた空気を追ってみましょう。空気が肺を膨らませる感覚、お腹が膨らむ感覚に注意を向けましょう。今度は反対に空気が出て行く時には肺は、お腹はどう動くか、その感覚に注意を向けましょう。

目を閉じ、これを30秒間やってみましょう。どんな感じがするでしょうか。


「音に関する気づき」

聞こえてくる音に集中しましょう。

自分が発する音にも注意を向ける(呼吸の音や体を動かす音)。次に部屋の中の音(エアコンや換気扇の音、空気が流れる音など)。そして屋外からくる音。

目を閉じ、これを30秒間やってみましょう。起ったことに気付きましょう。

このエクササイズを通していくつか気付くことがあるはずです。

まず、自分が「常に感覚の饗宴の真っ只中にいる」という事です。いつもは気が付いていないだけで、我々の置かれている環境では、常に多種多様のあらゆる感覚が行き交い、混じり合っています。

そして次に「思考や感情によって注意をそらされることが如何に簡単か」という事にも気が付いたでしょう。

それでは次に、現在に集中し、自分の周りで起きている事に気づくための練習法もご紹介します。毎日やってみましょう。

五つのことに気づくエクササイズ

これらは心を統一し、環境に繋がるためのシンプルなエクササイズです。毎日数回やってみましょう。

  • 少しの間、手を止め活動を休止します。
  • 自分の周りにある物を五つ選んで注目します。
  • 注意深く耳をそば立てて、聞こえる音五つに注意を向けます。
  • 体の表面に感じる感覚五つに注意を向けます(肌に触れる空気、服や座っているお尻の感覚など)

このトレーニングを更に発展させ、毎日外出した際に見える物、聞こえる音、匂いや体の感覚に注意を向けてみましょう。そして思考や感情に邪魔をされ「繋がりが切れた」と感じたらまたすぐに集中を取り戻します。


毎日の習慣に繋がるトレーニング

  1. 歯磨きや洗顔、シャワーなど毎日の習慣としている行動を一つ選びます。
  2. 五感を全て使い、自分の行動に完全に集中します。例えばシャワーを浴びながら、いくつかの異なる水の音に注意を向ける。水がノズルから飛び出てくる音、体に当たる音、排水溝に吸い込まれる音など。水が背中や足を流れ落ちていく時の感覚に注目しましょう。シャンプーの匂い、立ち上る蒸気などにも注目します。
  3. 思考や感情が沸き起こったら、あるがままにさせ、再びシャワーに注意を向ける。意識がさまよい出したことに気づいたらすぐに心に感謝し(心よ、ありがとう!)シャワーに意識を戻す。

毎朝の決まった行動の一つを選んで『つながる練習』をしてみましょう。上手く出来るようになってきたら他の部分にも注意を向けてみましょう。

なぜ「接続」する必要があるか

接続のエクササイズに慣れてきたら、もっと効果的に接続を行うために一日一回、自分が楽しいと思える行為と接続を行なってみましょう。

つまりこういう事です

自分にとって重要で、意味がある行動に「今、この瞬間」フルに繋がる事が、人生を充実したものしてくれるのです。

必ずしも刺激的な行為である必要はありません。普段のランチ、子供やペットと遊ぶ、日向ぼっこをする、森林浴、好きな音楽を聴く…このような自分にとって意味のある行為と「今、この瞬間」完全に繋がる為の、接続を行なってみてください。

これらを行うときは、いつも初めて実践するつもりで行うことをお勧めします(ビギナーズマインド)。「慣れてきた」とか思わないように、常に新鮮味を大事にしてください。

見える物、聞こえる音、匂い、手触り、味、全てに注意を払いましょう。そして「つながりが切れた」と感じたときはすぐにそれを認め、心に感謝し(心よ!ありがとう)また現在の行為に意識を戻しましょう。


ところで…なぜ「接続」しなければいけないのでしょう…

ここに来て身も蓋もない疑問を投じますが…まずは第一に、先ほども述べましたが「人生の楽しみをフルに体験するため」といえば納得できるでしょう。

しかし、人生とは好ましい状況ばかりではありません。

人生の向上の為には、時には避けて通れない不快感や、苦痛を受け入れなければなりません。

例えば、怪我や病気の回復のためには入院手術が必要ですし、これらは好ましくはないが、受け入れる必要があります。

綺麗で清潔な家で過ごすためには、煩わしい雑事も欠かせませんし、財政状態を健全に保ちたいなら帳簿をつける必要もありますし、収入の為には働かねばなりません…

生きていく上では、嫌なこともしなければならない事は事実です。

こんな嫌な事とも「接続」する必要があるのか…

結論から言えば…

不快な状況でも「接続」は必要であり、有効である。

です。

なぜそうなるのか…

好ましくない不快な状況を避けようとすればするほど、不快な思考や感情が生み出されます。これでは状況は悪くなる一方です。しかし、不快な状況にも「接続」を行い、目の前の事に完全に集中することで悪あがきする事は選択肢から消え、思考する自己が語る“不快な物語”を遠ざけ、現在に興味とオープンな感覚をもって注意を向けると(マインドフル)、これらの出来事は思ったほど悪くない事に気づくのです。

これらはアクセプタンスや拡張のプロセスと同じですね。

面倒臭いことに「接続」

日々の生活の中で、気は進まないが、どうしてもやらなければいけない事は多々ありますよね…炊事、掃除、洗濯etc…

めんどくせぇー!

ですが、この面倒な雑事にも「接続」を行うことで、それらに素早く取り掛かり、尚且つ丁寧にスムーズに終わらせる事が出来ます。

例えば、皿洗いを例に出しますか…

皿洗いと接続

皿洗いに完全に集中しましょう。

お皿、コップ、箸、フォーク…それらがどう汚れているか観察します。

蛇口をひねる感覚、流れ出る水の音、水の冷たさ、スポンジの手触り、重さ…それらを感じてください。

洗剤の匂いと泡立つ様、流れ落ちる水の音、跳ねる水飛沫…それらに注目してください。

皿洗いに関わる全ての状況に注意を向けます

状況に加え、それに伴う自分の腕の筋肉の動き、呼吸などの体の状態にも注意を向けます。


途中で「思考する自己」が『面倒臭いなぁ』とか『冷たいなぁ』とか語り出しても、それらとフュージョンする事なく、それらの思考や感情は好き勝手に行き来させ、目の前の事に集中してください。

このように、どんなに面倒臭くて煩わしい雑事でも、目の前の事に、ただただ集中して一つ一つの感覚に注意を向ける事によって「面倒臭いなぁ〜」なんて言いながら嫌々やるよりは、早く効率良く片付きます。

面倒臭いと思われる行為でも、オープンに好奇心をもって取り組んでみると、思ったほど面倒でも、手間が掛かることでも無かったと気付けるでしょう。

よく言われる「やる気を出すには、まずは取り掛かれ」というヤツと同じような感じですね。

現在とつながるための呼吸

さて「接続」もいよいよ佳境に入ってきましたが、最後に接続のための呼吸法をご紹介しましょう。


呼吸は我々が生きている証でもあり、死ぬまで止まる事はありません。我々は生きている限り常に呼吸と共にあります。

呼吸は精神面の動向とリンクしています。不安を感じる時、ストレス状況にいるときは呼吸は浅く速くなり(過呼吸)、その結果、心臓の鼓動が早まり、血流と酸素は脳より筋肉の方へ多く流れ、身体中が緊張し強張ります(闘争逃走反応)。

このようなストレス下では、脳に十分な血液と酸素が行き渡らず、論理的思考が困難になり、判断能力が欠如します。

ですから裏を返せば、ストレス下に置かれている状況に、落ち着き冷静さを取り戻すには、ゆっくり深い呼吸が有効でありストレスを抑えることができます。

この、ゆっくり深い呼吸が「接続」の為の補助的役割も果たしてくれるのです。

つながるための呼吸法

浅く速い呼吸では、肺の空気を出し切れていないが為に、新たな空気を取り込む事もできません。

まずは肺の中を空っぽにして、空気を取り込むスペースを確保する必要があります。

「吸う」ことから始めるのではなく「吐く」事を意識して、肺の中の空気を吐き切ってください。

力を込めず、ゆっくり深く長く吐きましょう…

呼吸は吸う時に緊張し、吐く時に緩む(リラックスする)ので、
吸う事より、吐く方に時間をかけてください。7:3くらいで丁度いいでしょう。

肺の空気を出し切ると、意識して吸わなくても、勝手に肺が空気を取り込んでくれるので、それに任せましょう。(無理に吸い込もうとすると苦しくなるのでNGです)


このように、ゆっくりした深い呼吸を10回繰り返します。

最初の5回は、胸と腹に集中し呼吸とつながります。

次の5回は集中を拡大し、呼吸だけではなく周囲の環境にも集中します。

視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚にも注意を払いましょう。


この呼吸をしてみると、より「現在」とのつながりを強く感じられるはずです。

正確には10回でなくとも構いません。隙間時間にできる回数だけしてみるのも良いです。

信号待ち、レジ待ち…普段なら手持ち無沙汰になってしまうであろう「少しの合間」、思考に埋没するのではなく、呼吸に意識を向けてみるのです。

このような呼吸法はリラックス効果をもたらしてくれますが、それはあくまで「接続の補助としての呼吸法」の副産物的効果であり、この呼吸の目的ではありません。

自分がただ気持ち良くなる為、不安や恐怖などの不快な感情から逃れる為(回避行動)に、この呼吸法を行わないように注意して下さい。

回避を目的とした行動は、不快な思考や感情と争う「悪あがき」の入り口になってしまいます。

この呼吸法を「接続」の補助として用い、その先に「どのような行動を取るか」が重要です。

終わりに…次回予告

さて、今回の「接続:今この瞬間に…」はこの辺りで締めさせていただきます。

「接続=今、この瞬間との接触」とは、一言で言うなら…

何事にも常に「今、ここ」に、マインドフルに取り組む

と言う事です。

「マインドフルネス」とは、それについて書かれている書籍によっても、その定義はマチマチですが…ACTではこれをスピリチュアルなものや、宗教的、神秘的なものとは定義しません。

ACTにおけるマインドフルネスとは…

「オープンな心と受容力と興味をもって、「今、ここ」の体験に意識的に気付くこと」です。


さてここまでACTについて見てきたことを簡単にまとめるなら…

  • 大前提として「感情のコントール」は不可能である。
  • 好ましくない思考や感情はコントロールするのではなく「脱フュージョン」する。
  • 「脱フュージョン」した思考や感情は、自分の中に居場所を作ってあげ(拡張)「アクセプタンス(受容)」する。
  • 「今、この瞬間」の体験に完全に集中するために「接続」する。

という感じですね。

今ここでは、便宜上これらの手法を順序立てて書いていますが、必ずこの順番で行うというものではなく、全てが相互に影響しあっているので、バラバラに考えるのではなく、これら全てを一纏めの手法として捉える必要があります。

「接続」を行う際に、自分が何か特定の思考とフュージョンしていると気づいたら「脱フュージョン」する。「拡張」を行おうとしている時に、意識が散漫し、心ここに在らずな状態であると気づいたら「接続」を行う…。

このように、その都度その都度の「気付き」によって、変幻自在にアプローチすればいいのです。

いかなる状況でも、まず「気付き」が大切です。

この「気付き」をもたらしてくれるのが、ここまで何度かご紹介してきた「観察する自己」です。

いよいよ「観察する自己」について深掘りする時がやってまいりましたが、文面の都合上、その詳細は次回に譲りたいと思います。

というわけで次回はACT04「観察する自己:オブザービングセルフ」になります。お楽しみに!

今回もお付き合い頂きありがとうございました!

それではまた!