ACT02「アクセプタンス:受容と拡張」
感情の居場所を作ってやる「エキスパンション(拡張)」

さて長々と引っ張ってきましたが、いよいよ「エキスパンション(拡張)」に入っていきましょう。
「エキスパンション(拡張)」は基本的には感情(思考)の居場所を作ってあげる事です。
不快な感情(思考)を解放し、自由に動き回れるスペースを与えてあげることで、それらはそれ以上私たちを張り詰めさせたり、重圧をかけたりする事は無くなります。
自分から押しのけるのではなく、ただ居場所を作ってあげて、そこに置いておく…そして感情(思考)の方が自ずと飽きて、去っていくに任せます。

では、エキスパンション(拡張)のテクニックに迫っていきましょうか。
あの…いちいち“エキスパンション”って書くの面倒くさくなってきたので、ここからはただ単に「拡張」とさせて頂きます。
「拡張」を実践する際は、思考する自己を遠ざけ、観察する自己を通して感情と繋がっておく必要があります。
「どこかで、うるさいラジオが鳴っているなぁ」くらいの感覚で、思考と距離を取り、その雑音に注目しないようにしましょう。それによって、感情を直接体験し、思考する自己が誇張したものではなく、感情のあるがままの姿を捉えることができるようになります。
思考する自己の主張によれば、ネガティブな感情は巨大で危険、醜悪な悪魔です。しかし、観察する自己はそれをあるがままに見ます。その姿は割合小さく、大した害もないと分かるでしょう。
「拡張」の目的は感情について考えるのではなく、感情を観察することにあります。先程のエクササイズや瞑想と同様に、思考に引っ張られることなく、ただただ対象となる感情に注目し、観察しましょう。その他の“思考のお喋り”に気を取られることなく、それらは目の前を行き交う車の如く、好き勝手に行き来させておきましょう。
「拡張」の4ステップ

「拡張」は身体の内部の感覚に気づくこと(ボディ・アウェアネス)、これらの感覚が身体のどの部位から来ているか、正確に把握することから始まります。
その4つの基本ステップが…
- 自分の気持ちを観察する。
- 息を吹き込む。
- 居場所を作ってやる。
- 存在を許してやる。
の4ステップになります。
非常にシンプルに見えますが、その実…

実にシンプルで単純です。
しかし、だからと言って簡単という訳ではありませんが…何事も実践あるのみです。何度も練習しているうちに自然と身につきます。
そして、この4ステップを身に付けておけば、不快な感情と向き合うことが、そんなに苦でも無くなってくるでしょう。
では、「拡張」の4ステップを、ひとつずつ見ていきましょう。
まず、自分の不快な感情を思い浮かべ、その感情に浸ってください。文字通り不快な想いをするでしょうが、これからそれを受容するために「拡張」を行うのです。
1・自分の気持ちを観察する
体の中の感覚を観察します。
先程の、身体意識(ボディ・アウェアネス)のエクササイズと同様に頭から爪先までスキャンします。
自分の不快な感情を思い起こすと、身体の各部位にいくつかの不快な感覚がある事に気づくはずです。その中でも一番不快に思う感覚を探ります。
胃が締め付けられる感覚か、涙が出そうになる感覚か、喉の奥か、胸の辺りか、下腹部か…それを見つけたらその感覚をじっくり観察します。
- その感覚は身体のどこから始まって、どこで終わっているのか?
- 身体の表面化か、内部か?
- 輪郭は、色は?
- 暖かいか、冷たいか?
観察しながら想像力を駆使し、その感覚を立体的に、具体的に把握してください。
*想像を視覚化して捉えやすい人は、イメージとして感覚を作り上げても効果的です。例えばキャラクター化するとか…手触りや、それ(感覚)がどんな見た目をしているのか…など。
2・息を吹き込む
見つけた不快な感覚の内部や周囲に息を吹き込みます。
できるだけゆっくり、深い深呼吸をします。息を吐く時に肺の中を空っぽにして、意識的に吸わなくても自然と空気が流れ込んでくるように…ゆっくり深く吐きます。
ゆっくり呼吸して、吹き込む息が不快な感覚の内部や周囲に流れ込むのを想像します。
3・居場所を作ってやる
感覚の内部や周囲に息を吹き込むのは、身体の中にスペースを作るようなものです。
つまり、不快な感覚の周りに、風船を膨らませるかのようにイメージして息を吹き込み、感覚の大きさに合わせて広げていくのです。
不快な感情が自由に動き回る為の居場所を開けてやるのです。
4・存在を許してやる
不快な感情は好ましいものでは無いでしょうが、それを容認してあげましょう。
それと闘ったり、追い払ったりなんて考えず「あるがまま」にしておくのです。
こちらから好意を寄せる必要もありません。そこにいる事を許してあげるだけです。
作ってあげたスペースに、ただ置いておき「ここにいてね」とそのままにしておくのです。
以上が「拡張」の4ステップです。
不快な感情に十分なスペース、居場所を与えてやることで、そこで不快な感情が勝手にエネルギーを使い果たし、自ずと消えていくのを待つのです。

慣れないうちは難しいかも知れませんが、初めは上手くいかなくともトライ&エラーを繰り返す内に不快な感情との向き合い方が分かってきます。
わざわざ自分の不快な感情を迎えにいくのですから、自虐的な行いに感じるかもしれませんが、積極的に感情に向き合う事で、その本当の姿を知り、必要以上に恐れたり避けたりする事も減り、悪循環の輪廻から抜け出ることが出来るのです。
独り言のアクセプタンス(受容)

「拡張」を実践する際、役に立つ独り言をご紹介しておきます。
- この感情は好きではないが、居場所は作ってやる。
- これは愉快な感覚ではないが、私は受容しよう。
- 私は〇〇という感情を持っている。
- 私はこれが好きでは無い。こんなものは要らない。こんなものは認めない。だが今ここで私はこれを受容しよう。
というような独り言を「拡張」の際に呟くと、「アクセプタンス(受容)」の感覚を掴みやすいのでは無いでしょうか。
このような独り言は、よくポジティブシンキング系の自己啓発で使われる「言葉に出して唱えているだけで、なりたい自分になれる」みたいな、所謂「アファーメーション」のような効果を期待するのはNG です。
「私は金持ちで、幸せだ」と言えば、明日には金持ちで幸せになっているかと言えば…
ならないですよね。
あくまでも、不快な感情に向き合いアクセプタンス(受容)する為に、自分を前向きにさせる、鼓舞させる目的での独り言です。
衝動

感情とは、我々が何か行動を起こす際の準備を担います。
つまり我々は感情に刺激されて行動に移るという事になりますが、この刺激を「衝動」と呼びます。
例えば、怒りを感じた時に、何かを攻撃したり、破壊したり…悲しい時には泣いたり…「〇〇せずにはいられない!」と己を特定の行動に駆り立てる強い感情が「衝動」です。
他には、飲酒、喫煙、ドラッグ、過食…あまり気分が良く無い時などに、何かに頼って気を紛らわせる依存症も「〇〇せずにはいられない」衝動によるものです。
これらの「衝動」が起こった際、我々が取るべき対応は二つです。

衝動に従って行動するか、しないか
です。
ですが、何事に対しても、衝動に駆られるままに行動していたら…「円滑な社会生活…」は遠のく一方でしょう。
「常に衝動的な人間」になんて、誰も近寄りたく無いですよね…
ですから、自分の内側に衝動が沸き起こった際はこのように自問しましょう。
「この衝動を行動に移すと、自分の望む人間に近づけるか、目指す人生の方向に合致しているか…」
この問いに対して「イエス」であれば衝動に従い、「ノー」であればもっと自分の価値に見合う方向に行動の舵を取ればいいのです。
とはいえ、とはいえです…ほとんどが人がこの質問に対しては…

N O〜!!!
なのでは無いでしょうか…
衝動とは多くの人々にとって「止めたくても止められない」ものである場合が殆どでしょう…
では、どのように「衝動」と上手く付き合うべきか…
実はこれにも「拡張」のテクニックを応用する事ができます。
衝動のサーフィン

衝動がある方向に我々を押し出そうとする一方、我々の本心は「衝動に従いたくない」状態にある時、どのようにするべきか…ACTでは

「止めたいのに止められない!あーもう、どうすりゃいいの!」
と衝動と争う事はしません。
抵抗やコントロール、抑圧をせず、感情のためにスペースを空け、十分な場所と時間を与え、そのエネルギーを使い果たさせるようにします。
つまり衝動に対し「拡張」を行うのです。
このテクニックを「衝動のサーフィン」と呼びます。
「衝動のサーフィン」は衝動を波のように扱い、それが消えるまでサーフィンをするというシンプルですが効果的なテクニックです。
方法としては先ほどの「拡張」のための4ステップの応用になります。
1・観察する。
衝動を身体のどこで感じているか気づく為に体の中の感覚を観察します。
先程の、「拡張」の4ステップの『1』と同様に行ってください。
2・認める
「私は〇〇…XX…△△…などの衝動を抱えている」とただ認めてください。
3・息を吹き込む
体の衝動を感じている部分の周囲と内部に息を吹き込み、十分なスペース作ってやります。(抑圧したり、追い出したりしないようにしてください)
4・衝動の波を観察する
息を吹き込んだスペースに、「衝動の波」が波打っている様子をイメージしてください。
その波が生まれるところ、頂点に達するところ、そして崩れ落ちて消えるところを観察します。
そして衝動に1〜10の等級をつけましょう。
例えば、ダイエット中に無性にお菓子を食べたい衝動に駆られたとします。
そこで「お菓子を食べたいという衝動がある。それは今、6の段階だ」のように観察します。
衝動が上昇しているか、頂点に達したか、それとも下がっているかを観察し続けましょう。そう、ワイプアウトせずに波に乗り続けるように。
衝動がどんなに大きなものであろうと、居場所を作ってやる事はできます。十分なスペースを与えてやれば、衝動は遅かれ早かれ頂点に達し、やがて収まっていきます。衝動を観察し、息を吹き込み、存在を許してあげましょう。
5・衝動を自分の価値に照らしてみる
最後に自分に質問してみましょう。

「自分の衝動をコントロールしたり、それに抵抗する代わりに、長い目で見て人生を充実させるために、どんな行動が起こせるだろう?」
あなたはどう答えるでしょうか…
答えがどんなものであれ、断固として実行しましょう
終わりに…次回予告

さて、少々長く成りましたので、この辺で締めたいと思います。
今回は「アクセプタンス:受容と拡張」というテーマでお届けしましたが、いかがでしたでしょうか?
まとめるなら…
どんなに不快な感情でも、それに抵抗したり追い出そうと闘ったりするのではなく、自分の内側に息を吹き込み、不快な感情の居場所を作ってやり(拡張)、そこに置いて(受容)、それらがエネルギーを勝手に使い果たすのを待つ…
という具合ですね。
言葉でまとめると非常に単純な仕組みですが、だからと言って簡単と言うことではありません。
「不快な感情」と向き合い、受け入れる事に激しい抵抗を感じる方もいるでしょう。しかし、何度も言いますが、どんなことも実践あるのみです。

実践なくして、人生に変革はありません。
「ACT」とは総称である「Acceptance&Commitment Therapy」の略ですが、ACTの基本理念も『ACT』から成ります。
A=accept(思考と感情を受容する)
C=connect(自分の価値と繋がる)
T=take effective action(効果的な行動をする)
自分の価値に従って、それに見合った行動をとる事が本当の幸せであるとします。
そして心は常に『今、ここに』にあるべきなのです。
過去のことを思い出してあれこれと苦しみ、先(未来)の事を心配しあれこれ悩み…
このように過去や未来のことに関する埒もない思考に埋没して、今を見過ごしてしまっている方がとても多いのではないでしょうか…
大切なのは、いつだって『今、この瞬間』です。
過去は過ぎ去り、未来はまだ何も起こっていません…全ては『今、この瞬間』に起こっています。
常に『今、この瞬間』と繋がっていることが、充実した人生を送るポイントです。
さて、その詳細についてはまた次回お届けします。

というわけで次回はACT03「接続:今、この瞬間に…」になります。
お楽しみに!
今回もお付き合い頂きありがとうございました!
それではまた!
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